【ファンタジー小話】魏志倭人伝に記された謎の国の話
…やるとは言ったものの、この「ファンタジー小話」という掲題が正しいのかわからなくなってきたな。
この前Twitterに投稿した刀禁呪の話しかり、別にファンタジーでも何でもないような気がする。
だって刀禁呪は実際に行われていた陰陽道の呪法だし、これから書くことも実在性はさておき実際に書いてある事だし…?
………まあいいやw
ファンタジー系武器やアイテムの解説者がやる小話ってことで…w
今回は歴史の授業でも習うので、名前を知らない人の方が少ないんじゃないかというぐらい有名な中国の歴史書「魏志倭人伝」に謎の国が出てくるよというお話。
興味有るという方はぜひ続きをどうぞ。
謎の国とは…?
ちなみに魏志倭人伝ですが、そういった名前の独立した列伝がある訳ではなく、中国の正史である三国志の中の、魏書の30巻目である烏丸鮮卑東夷伝(うがんせんびとういでん)の中の、倭人の条の事を指して、魏志倭人伝と言います。
さて、件の謎の国ですが、名前を「侏儒国(しゅじゅこく)」「黒歯国(こくしこく)」「裸国(らこく)」と言います。
先ず魏志倭人伝原文の表記は以下の通り。
女王國東渡海千餘里 復有國 皆倭種
又有侏儒國在其南 人長三四尺 去女王四千餘里
又有裸國 黒齒國 復在其東南 船行一年可至
女王の国から東に千里あまり、国があり、みな倭人である。
また侏儒国がその南にあり、身長がみな3~4尺ほど、女王の国を去って四千里あまりのところにある。
また裸国、黒歯国はまたその南東にあり、船で1年ほど行くと至る。
女王の国とは卑弥呼が治めていた国のことです。
邪馬台国として習いましたよね。ここでの女王の国は、邪馬台国をはじめとした倭国連合のことを指しています。
それが今のどの辺りにあったのかってのは今日の主題ではないので置いておきます。
この女王の国から東に千里ぐらい行くと国があって、でもここの人々はみな倭人であると。
一応「みな倭人」としましたが、原文にある「倭種」という言葉は「日本人と他国人との間に産んだ子ども」という意味もあり、また他の資料では、倭種は倭人に近縁の種族を指すものだとしているものもありました。
コレはどこのことを言っているのか…という話をするにはやはり女王の国がどこにあったのかという話をせざるを得ませんので、コレも今回は置いておきましょう。
本題はここから。
侏儒国について
東の倭種の国からさらに南、女王の国を離れて4000里も行くと、今度は侏儒国というものが有るそうです。
現在の中国では1里は500mだそうですが、三国時代の1里はもっと短かったらしく、とある資料にて415~420mぐらいという表記を確認しました。
計算しやすいところで今回は420mとしましょう。したがって4000里は1,680,000m=1680kmです。
東京~那覇間が1550kmぐらいなので、それより100km以上も離れていますから、結構遠いですね。
当時の価値観なら十分外国と言えるほどの距離じゃないでしょうか?
その国の人は身長が3~4尺ほどとのこと。三国時代1尺はだいたい23cm前後という資料が有りましたので、これを参照すると69cm~92cmという事になります。
つまり小人の国です。(ダークソウルめいてきましたね)
ちなみに「侏儒」という言葉が小人を指しているのですが、その証左として日本書紀にも侏儒という言葉が登場しており、ここでも「小さな人」というような使われ方をしています。
三巻「神武天皇」より
身短而手足長、與侏儒相類
身の丈が低く、手足が長く侏儒に似ている。
似ているということは、どこかに侏儒という背丈の低い生き物が居るのか、あるいは日本書紀が記す侏儒の元ネタが、魏志倭人伝の記す侏儒国の人の事なのかもしれませんね。
黒歯国・裸国について
小人の国である侏儒国を離れ、さらに東南の方向へ。
船で1年(これが侏儒国から1年なのか、女王の国から1年なのかは解りません)かけて行った先に、今度は黒い歯をした人々のいる黒歯国と、人々がみな裸で暮らしている裸国があるそうです。
…なんか侏儒国と比べて、黒歯国と裸国は謎の国と題するほど謎か?という気がしないでもないですね。
しかしこの黒歯国と裸国は、魏志倭人伝以前に表された文献にもしっかり出てくるので、その詳細は少し追うことができます。
先ず黒歯国。淮南子という思想書と、山海経という地理書にてその記載が確認できます。
淮南子は紀元前2世紀中ごろ、山海経は紀元前3世紀から4世紀ごろの書物とされています。
それぞれ文献で複数個所に記載が確認できるので、ひとつづつ抜粋してご紹介します。
淮南子 其人黑齒 食稻啖蛇
そこの人は歯が黒く、稲と蛇を食べる。
山海経 有黑齒之國 帝俊生黑齒
黒歯の国の人は、帝俊の子孫である。
稲と蛇を食べ(紹介していませんが黍(きび)を食べるという記載もあります)、帝俊の子孫であると。
帝俊は中国における東方の神で、中国の伝説的統治者である黄帝の曾孫とされる神格です。(諸説あるみたいですが)
めちゃめちゃ由緒ある一族ですね。
次に裸国。これは呂氏春秋という本にその記述があります。
この本は呂不韋という秦の政治家(キングダムにも出てきますね)が知識人を集めて共同編纂させた書物で、様々な学派の知識を集約した百科全書的な本です。
紀元前298年に完成したとされます。
呂不韋はその出来を誇っていたのか、完成後は一般に公開され、一字でも添削が出来た者には千金を与えると公言していたそうです。
立派な文章といった意味の四字熟語である一字千金の元となっている話ですね。
話を戻して、呂氏春秋において裸国はこの様に記載されています。
巻十五 禹之裸國,裸入衣出,因也
禹は裸国に入る時、その慣習に倣い、裸になった。
禹(う)というのは、中国夏王朝の創始者である伝説的な帝ですね。
禹が礼節を重んじる人だという側面を強調する話なのか、はたまた禹が相手方の慣習に合わせるほど対等な関係にあった国だったのでしょうか?
まあ一つ言えるのは、そんな伝説上の過去の時代から裸国はその存在を知られ、交流が図られていた様です。
ちなみに裸国は淮南子にも出てきますが、南東にあるいくつの国の一つ的な紹介のされ方しかしていないので、ここでは割愛します。
なお侏儒国については、軽く調べた限りでは、魏志倭人伝以前の書物で登場するものは確認できませんでした。(あくまで軽く調べた限りでは…ですが)
しかし山海経には、遠く東の方に小人の国があるという記述があります。
大荒東經 有小人國,名靖人。
小人の国があり、名を靖人という。
…靖人?やすひと??
なんか人名みたいな…w
ちょっとよく解りませんが小人の国というのも古くから知られていた様です。
元ネタは?実在する?
まあ何が言いたいのかと言うと、魏志倭人伝に登場するこれら三国は、いきなり降って湧いたものではなく、それ以前の様々な書物に痕跡が確認できるという事です。
そして魏志倭人伝における三国の記述は、実際に魏や晋の者がそれらの国行ったり、あるいはそれらの国から使者などが来たりしたから書いた、というものではなく、それ以前の書物の記述を参考にして書いただけなんじゃないかなと。
というのもですね、これら三国の記述って、文脈も何もないところにいきなり出てくるんですよね。
三国の記述の直前には、女王の国は元々男の王が居たが国が乱れたとか、その後卑弥呼が王となり鬼道を操ったとか、卑弥呼がどういう宮殿に住んでいて何人ぐらい僕が居るとか、そういう倭国の歴史と暮らしぶりの紹介みたいな記述になっています。
そのあとにいきなり「小人の国があって歯が黒い人の国と裸族の国がありまーす」と書かれているんです。
更に倭国の地理的な話は魏志倭人伝の一番最初にすでに書かれているので、三国の記述は正直文脈的に取って付けた感が有ります。
しかし、文脈がおかしいからといって、これらは元ネタも何もない、完全に架空の国々だと断ずることはできません。
そもそも、現代的な価値観で「文脈おかしくね?」というのはナンセンスではありますし、それに侏儒国はまだしも、黒歯国と裸国については、日本の南の方、東南アジアのあの辺の島々に、かつてそういう民族が暮らしていたとしても、あまり違和感がないように感じませんか?
現に黒歯国については、インドネシア周辺の国ではないかと指摘する研究者もいるそうです。
その論拠として、ベテルチューイングというガムのようなものを噛む習慣があったといい、時々赤黒い汁を飛ばしながら話していたとされ、地理的にも類似するものが有るからだそうです。
それに先ほど紹介した淮南子や山海経には、これら三国以上に奇妙な国々がいっぱい登場しています。
例えば不死人の国、顔が三つある人々の国、胸に穴が開いた人々の国など…
このような様々な謎の国があった中で、侏儒国をはじめとした三国だけがのちの資料にまで残ったという事には、何か意味があるのではないでしょうか?
もしかしたらそれぞれ元ネタとなる地域があるのかもしれませんね。
という事で今回はここまで。
また次回。
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